FC2ブログ

記事一覧

結婚番外編_Soujiro Birthday20




あのことがなかったら…
あたしの頭の中に色いな想いが去来する。
待っている間に、そんな夢想をしたこともあった。
長い長い、ひとりきりの真っ暗な孤独の海で溺れそうだった頃。



小さく息を吸う。声が震えた。
「あんたは、あたしのために道明寺を捨てて…あたしも家族とか友達とか全部捨てて。きっと貧乏だけど、楽しくやってたよね。
あたしはあんたが全てで…あんたもあたしが全てで…それだけであたし達は満たされて、幸せだったろうね。」



「なら」
唇を噛み締める道明寺の目の縁も赤くなっていた。
泣き顔は見せたくなかった。けれど、堪えきれずに下瞼で支えきれなくなった雫が零れてしまう。



「あんたと別れて、苦しかった。
それなのに、今こうして迎えに来てくれたあんたの手を取れないことを、悲しいし申し訳ないとも思う。
…神様はなんて意地悪なんだろうって思ってた。


でもね、一緒にいて、あんたの仕事ぶり見て、やっとこれで良かったんだって思えた。


やっぱり、あんたはすごいよ。選ばれた人間なんだよ。
こんなに若くして大きな企業の社長なんて座について。“後継者だから”、だけじゃ無理だよ。誰にでもできる事じゃない。
あんたにそれだけの力があるから、周りからの称賛も敬畏も受けて、立派に役目を果たしてる。


それにそのポジション、最高に似合ってるよ。
だから、あたしに付き合わせて貧乏暮らしなんてさせちゃいけない人だったんだって、分かった。」



なんだよ、それ。呻くような呟き。
「俺の気持ちは置き去りか?」
また涙がこみ上げる。泣くな。あたしが泣くのは違う。ぐっと力を込める。
「うん、ごめん。せっかく18のあんたが戻って来てくれたのに。」
「お前の中では、ごめんで済むんだな…」
悔しげな顔に、また胸がきゅっとした。
「何年も何年も引き摺ったから。」
一番苦しい時間は、もう過ぎた。
あんたといて一番幸せだった時間も、もう過去のことだと整理がつけられた。
最後に、恋の余韻を味わう事まで出来た。あたしは、これ以上は望まないし、望めない。



「俺にも何年も引き摺れってことか?ざけんな。」
舌打ちと共に吐き出す言葉をあえて軽く拾う。
「あんたは忙しいから、あたしみたいにグズグズしてる時間ないでしょ。」
「ひでーな。」
道明寺があたしを見つめる。
あたしも、真っ直ぐに見返す。目に焼き付けるように見つめながら、頭の中は相変わらず色々なことが過ぎっては消えてゆく。



しばらくは無言だった。



ようやく、道明寺があたしから視線を外す。
「お前が、総二郎のことがイヤになったらいつでも来い。なんてこたー言わねーぞ。
今この瞬間で、お前は俺を切るんだ。あとで後悔したっておせーからな。自分が決めたってこと、忘れるなよ。」
「うん、忘れない。」



人生をかけてもいいと思うほどに恋した人。
あたしは、この人の手を離す。自分の意思で。
ずっとずっと好きだった。幸せな時間は少しだけで。あとは辛くて泣いてる時間の方が圧倒的に長かった。それでも、好きで好きで、なにもかも手放せるほどに好きで、恋焦がれた。
愛しくて堪らない人だった。



「俺は、忘れる。
お前のこと忘れたら、会いに行ってやる。」
 


忘れたら会いにくるんだ。
意表をつかれる。
けどすぐにそれがこの人なりの決着の付け方なのかもしれないと思う。



思い出して会いに来てくれるのをあれ程待っていたあたしが。
次は忘れてくれるのを待つんだ。なんというパラドックス。



次に会う時には、あたしを想ってくれた道明寺はもういない。



こんな風にしゃべったり、笑ったり、そんな時間はもう二度と来ない。
この人とあたしは、別の道を歩く。
二度と交わることもない。



それは酷く切なくて…だけどあたしは総二郎を選んだのだから。
その痛みもきちんと受け止める覚悟はあった。



「あのね、あたし、あんなに夢中で恋したのは道明寺だけだよ。
不思議と楽しかったいい思い出ばかりが残っていて、あんたを想うたびに失ったものを思って辛かった。
けど、同時に幸せな気持ちをたくさんもらってた。
ありがとう。そんな風に、あたしを愛してくれて、ありがとう。
道明寺を好きになって良かった。」



俺様だけど、優しくて強くて、最高にカッコイイ人は、目の縁を赤くしたまま笑ってくれた。



やっぱり、あんた凄くいい男だよ。
運命を呪いたくなる日もあった。けど、やっぱり、あんたに会えたから今のあたしがいる。



道明寺は最後まで紳士だった。
帰るというあたしをエレベーターまでエスコートしてくれる。
「じゃ」
「おう」



お互いにまたね、は言わない。恋人同士だった記憶は、ここまで。
あたし達の最後のふたりの時間は、そうして終わった。



いつもありがとうございます。
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

関連記事

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: No title

ち**さま

こんばんは。コメントありがとうございます。

内心、いろんな気持ちがあったはずですが、総二郎に対してつくしが板挟みになるのが分かっていながら手を出したと怒った通り、司にはやはり一番はつくしなのだと思うのです。

なので、最後はつくしの意思を尊重し、彼女が困らないように振る舞ったわけで。大人です…


こちらこそいつもお付き合い頂きありがとうございます。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

0004

Author:0004
はじめまして。
お立ち寄り頂きありがとうございます。

〈お願い事項〉
当サイト内の文章等の無断転載及び複製、他サイトへの無断引用等の行為はご遠慮ください。