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傾聴屋_23



田中に朝一の予定をリスケさせ、美作不動産のオフィスに向かった。
昨夜牧野つくしの一番近くにいた男だ。類と迷い、先にこっちを当たることにした。



エントランスに入るなり俺に気がついた受付の女が、上で待つよう案内に来たが、俺はそれを手を振って追い払う。
不動産会社だけに立地はいい。ビルの内装は高級ホテル並みに洗練されており、ロビーもフリースペースが贅沢に取られたゆったりとした作りだ。きっと中も同じように今のトレンドを取り込んでいるのだろう。



設えられたソファーに座り、そんなことを考えていると、連絡を受けたらしい俐人の部下だという男が降りてきた。



それだけで会社として統制が取れており、俐人が社員達から好意的に受け入れられていることが分かる。
実際のところ、姉婿が既に幹部として登用されている中での代表の嫡男で後継ぎってのは、なかなかに立ち位置が難しい。初っ端から上手くやってるんだなと意外に思う。
ついでに関係が悪いウチとは大違いだな、とつい苦笑がもれる。



しばし待てば、近くに控えていた男が、
「只今俐人様の車が到着いたしました。すぐに参ります。お待たせして大変申し訳ございません。」
そう言って腰を折る。



「普通に、歩けてるよな?」
エントランスから颯爽と現れた俐人に、俺は思わず首を捻る。



俺の言葉に、俐人は柔らかな笑みを浮かべながら頷く。
「100°くらいは普通に曲がりますから。」
膝に目を向けると、俐人が軽く膝を曲げてみせた。もう一歩近づけば、優雅な香がふわりと香る。



この香りがあいつからしたことはなかったな、と思い当たり、その代わりに類のオードトワレの移り香があった夜を思い出す。
あの女に関することは、全てが気になった。
それは欠けた記憶のせいなのかと思えば、それもまた自分の知らぬところで一体何があったのかと昔の自分に問い質したい気分だった。



「歩いたり立ったりはあまり支障ないですが…段差とか、かがんだりは…苦手ですかね…」
そんな風に軽やかな口調で話すと、口元に軽く握った手をやり、くすりと笑う。



「忙しいあなたが翌朝に会いに来るって、相当ですよね。つくしさんのことがそんなに気になりますか?」
「悪いか。」
即答すれば、いいえと首を振る。
「気に障りましたらお詫びします。」
言葉とは裏腹に、まるで気にしない様子は、人によればふてぶてしくも映るのだろうが、容姿が味方してるせいで無邪気に感じるから不思議だ。
腹の中で値踏みする。大学卒業したばかりってことは。22か3か…?どちらにせよ、年齢よりは若く見えるな。頭も悪くなさそうだ。
どこか…聡い幼馴染みを思い出した。



「別に気に障りはしねーが、お前、朝まであいつと一緒だったのか?」
俺の問いにわずかに首をかしげる。
「いえ…昨夜は会場を出てからわりとすぐに分かれましたよ。」



ちっ、と舌打ちが出る。
やっぱりあいつ、無視しやがったな。



俺にぴたと視線を合わせてくる俐人に気付く。
こんな風に真正面から真っ直ぐ俺を見てくる人間など珍しく。
「なんだ?」
すかさず問えば、
「道明寺さんとつくしさんの関係を聞いても?」
笑顔でそんなことを聞いてくる。



「知らねーよ。」
本音だった。
何しろこれから始めんだからよ。



「つくしさんに会いたいなら、明後日約束してるんです。その時間、譲りましょうか?」



は?



「あの人、頑固なんですよ。
昨夜、約束していて反故にされたと言うより、約束もできなかったんじゃないですか?
あの人は、真面目だから約束したら本意じゃなくても守るから。

明後日、待ち合わせ場所に僕の代わりに行ってください。そうすれば、会えますよ。」



“あの人”、と親しくて遠い呼称を口にする俐人を前に、それこそこいつにとってどんな存在なのかと疑問に思う。
「あいつに怒られんじゃねーの?」
「まあ…慣れてます。」
肩を竦めてまたひとつ小さく笑う。



それから意志によって自由に動かせる鼻から下の随意筋をフル活用した笑顔で俺に視線を向ける。
「そうそう、道明寺さんにひとつ、ご相談が。
都内に今うちが開発してる地区があるんです。オフィス棟も新しく建つのですが、そこに、道明寺傘下の企業にテナントで入ってもらいたいんです。」



にこやかな笑顔。
まるで裏なんかないとばかりに清々しく笑う姿に、面白いと思う。



「いいぜ。うちのビル管と都市開発部に話とく。」
いっそ下心があった方が納得する。
何もないって方が、違和感だ。
若いがよく心得ているのだろう。



そうして、俺は牧野に会うために俐人から聞いた場所に向かうことにした。



いつもありがとうございます。
遅くなりました…そろそろ皆様に見捨てられてしまうのではないかと心配になりながらの更新です。
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コメント

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Re: タイトルなし

ひ✱✱✱さま

こんばんは。
優しいコメントありがとうございます。

そう言って頂けると、もう少し頑張ろうって思えます。
元気が出るお言葉ありがとうございました!

Re: タイトルなし

ゆ✱さま

こんばんは。

見捨てずにいてくださり、ありがとうございます!
見限られないように、次回も頑張ります◡̈♥︎

コメントありがとうございました。

Re: タイトルなし

a✱✱さま

こんばんは。

こちらこそいつもお越しくださりありがとうございます。
そうですね、少しづつ関係が明らかになって行くかと思います。

そして、ご心配頂き、恐縮です…大丈夫、元気いっぱいです。
時間の使い方次第なんですよね。分かってはいるのですが、今はマイペースにやらせていただいてます!
コメントありがとうございました✩*॰¨̮

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