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傾聴屋_22



反射的に顎で示された方を振り返る。



新緑が美しい庭園の中を横切る渡り廊下に、道明寺の姿が見えた。
真っ直ぐにこの部屋を目指す、その視線の強さに思わず身体が固まった。



「な、なんで…」
再び西門さんの方を見れば、
「後ろから黒い偉そうな車がついて来てたの気付かんかった?」
くっと愉快気に笑う。




牧野つくしとして道明寺に会ったのは、ほんの数日前だ。
あの日の夜、俐人と別れてから私は迷って……結局…道明寺に連絡はしなかった。



眠れない、と言う申告は気になったものの、道明寺の顔色は悪くなかった。



仕事とプライベートの境目が曖昧なままで会うのは気後れだった。
さっきまで牧野つくしとして接していた相手に、傾聴屋としてパーフェクトな振る舞いが出来るかの自信がなかった。



レセプションパーティでの牧野つくしとしての再会に、私はうっかり動揺してしまったし、その際のやり取りで道明寺が敢えてその境目を崩してこようとしそうな気がして、警戒もあった。



あいつの猪突猛進さは身に染みてる。
私に近づく時にも、私を遠ざける時も、とにかく一方的でこちらの事情などこれっぽちも斟酌しない。そういう男だから。
余程気をつけていなくては、うっかりその勢いに飲まれてしまう。



「俺は、お前も喜ぶと思ったけどな。」
西門さんが吐息に言葉を乗せる。
「だって、お前も待ってたじゃねーか…」



ドキッとした。この人も気が付いていたのか…
そうだよ、待ってたんだよ。しばらくの間は。
誰にも言えず、一人涙を零してた。
諦めながらも、どこかで夢見てた。



けど、それからしばらくして、私は完全に諦めてしまった。
他の人の悩みや愚痴を聞いて、色んな人生があると知った。自分だけが苦しい訳でもない。皆が与えられた環境で折り合いを付けながら生きている。



私も前を向こうと思った。
それから、道明寺が隣にいない事実を受け入れた。後悔もやめた。



私は、道明寺を待ち続ける人生を選ばなかった。



だから、もう、 遅いんだよ。



10年だ。
そもそも記憶を…忘れ去られた記憶を取り戻すことなどできるのだろうか?
それに、思い出したところで、道明寺だけをただひたすらに想っていたあの時の純粋な私はもういないのに。



道明寺、あんたは…あの島の誓いを思い出したら…
今の私を見て悲しむ?なんで待っててくれなかったのかと怒る?
それとも…思い出したらむしろ今みたいに失くした記憶にこだわったりせず、いっそ過去に出来るのかな?



そこまで考えて、首を振る。
あの島の誓いは、私の生きている意味だった。たった17年しか生きていない小娘だったけど…あの瞬間のために自分は生きていたのだと言えるぐらい、全てだった。



だから、今更あんたにどうこう言われたくないんだよ。
あの時の、私達の想いを。


肯定でも否定でも。どちらだとしても、大人になったあんたに今更あの時のことに触れてほしくない。
詫びられることなど、もっとされたくない。
たくさん泣いて、後悔して、恋しがって。けどもう無理だと言い聞かせて諦めて。やっと、思い出にしたんだよ。



やっぱり、断るべきだったんだ。
タマさんに道明寺に傾聴屋として会って欲しいと連絡を受けた時。
タマさんの方が倒れてしまいそうな程に気に病んでいた。
やっと日本に帰ってきたのに。昔のような生気が感じられない。このままじゃ坊っちゃんが壊れちまう。
そう言ってあの気丈な人が、電話口で声を押し殺して泣いていた。



なにより、話を聞いて、まさかと思ったんだ。
まるで生きることへの執着が感じられなくなったと聞いて…
熱い魂を持っていた男がまさか、と信じられなかった。



けれど、事実、あれほどに血気盛んだった男が、記憶を失くして以来、感情的になることもなくなったという。
昔のように女性を嫌悪し、食欲不振で、いよいよ…睡眠欲までもを手放したと聞いて…



道明寺の安寧は何処にあるのだろうか。
そんな風に思ってしまったんだ。



もうすぐ道明寺が現れる。
耐えられるのだろうか。
再会してから日増しに高まるあの男のエネルギーに。



なに弱気になってるの!私は自分を叱咤する。
決めたのだから。あの男の勢いに飲まれちゃいけない。
あの夜はいきなりだったから、少し動揺しただけだ。
今の私は、道明寺だけが全てだった世の中を知らなかった少女じゃない。



ひとつ呼吸をし、対峙する覚悟を決める。



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