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傾聴屋_15



彼は私の心情には気付かぬまま話を続けた。



「僕には、姉が二人います。
幸い長姉も次姉も、父がこれと見込んだ人と結婚しています。ああ、別に政略結婚とかではないですよ。義兄二人とも普通のサラリーマン家庭に育った人なので。
父がね、その辺とても上手い人なのですよ。


これぞと見込んだ男性社員を登用して、何かと我が家に来る機会を増やして、姉と接点を持たせるようにするんです。もちろん、自社にとって役に立つ有能な人間かの観点だけでなく、見目も良く、コミュニケーションスキルにも長けた、若い女の子が好きになりそうな魅力的な男性を選別するわけです。
もちろん、既に恋人がいるような男は除外されます。


二人の姉は、家族の僕が言うのも何ですが、美しい人でして…歳の離れた僕をとても可愛がってくれる心優しい人達です。


令嬢にありがちな高飛車や我儘なところはなく、会えばいつでも労い、親しげに微笑んでくれる。
料理をしたり、歳の離れた弟の世話を喜んでする家庭的な姿は、彼女が妻になった未来に重なる訳ですよ。


そういった機会が増えれば、自然と自分が尊敬し、また可愛がってくれる上司の娘に興味を抱く。
娘は箱入りで男性と縁がなくて、君のようないい人が婿に来てくれたら。
そんな上司の言葉に男は欲を出す。
そして父は、絶妙にタイミングをはかり、男が姉へ接触する機会をさらに増やすんです。


するとね、普通の男は恋するんです。もしくは、恋した気になるのかな…
そして温室育ちの姉は、自分に向けられた好意に気が付き、恥じらい、喜び、ときめく。


そこまでお膳立てして、あとは姉に決定権を持たせるんです。


『彼がお前を好いているようだ。お前が嫌でなければ、お付き合いしてみるかい?』


そうして、長姉は兄のように慕って、淡い恋心を抱いていた少し年上の男性とお見合いをして結婚しました。
次姉は、父の会社に勤める弁護士資格を持つ男性と恋愛結婚しました。


どちらも、姉のことを大切にしてくれる優しい義兄ですよ。
有能で程々に野心があって、けれど誰かを押し退けようとしたりはしない品の良さが長所であり短所でもある、そんな婿殿です。


例えば、この先、妻の歳の離れた弟が後を継いだときに、参謀として、または法律のスペシャリストとしてサポートに全力を尽くしてくれる、そんな自分の立場を理解した賢さを持つ人達なんです。


だからね、僕は生きてさえいれば良かった。
遅くに出来た嫡男だというのもあったんでしょうね。小さな頃から後継ぎだと大事に大事に愛されて。
思い掛けずに病気にはなったけれど、経済的に頼れる父親がいて、安心して治療に励める。昔なら不死の病だか、今はそうじゃない。そして僕が辛くならないようにと、常に心を砕いてくれる母がいて、僕のために泣いてくれる姉がいる。その上、励まし、尽力してくれる義兄や友人がいる。


だから、周りは、総合的に見て、僕を恵まれていると言うんです。良かったね。って。


事実、僕も自分は運がいいと思います。


実は、高校入学の時に、東大を受けるかそのまま英徳大に進むかを迷って、僕は英徳に決めた。
経営者になるには、学歴って意外と重要なんです。特に僕みたいな後継ぎの立場では、周りに納得させる材料になる。
義兄も二人とも旧帝大卒です。
けれど、あきらくんに英徳に行けば人脈が作れると聞いて、東大に傾いていたのをやめた。だから今回のことがあっても、留年も浪人もせずに大学に上がれた。


この前、肺への転移が分かり、ついこの間まで入院してたんですよ。
そんな風に治療で大学を休まざるを得ないときは、付属でずっと一緒だった友人らがサポートしてくれています。


そう思えば、確かにそうなんでしょうね。やっぱり恵まれてるんだとは思います。
だから僕も周りに笑って、恵まれているから感謝しなければねーー そう言わないとならないんです。」



そこまで落ち着いた様子で話してから、少しの沈黙が訪れる。
そして、再び口を開くと、それが苦しくなってきたのだと、彼は顔を歪ませた。



たった18歳で、こんなにも他者を思えるなんて、なんて心が綺麗なのだろうか。
私には彼の純粋さが眩しかった。



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