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傾聴屋_14



助けてください。



彼はそう切り出した。



私達は、彼が指定したホテルの一室にいた。
昔、ずぶ濡れの道明寺と二人で入った部屋に似ていた。



この子もまだ18歳なのに、こんな高級な部屋を容易く押さえられる立場なのだ、と思えば、自分で稼いでもないくせに、とつい昔に覚えたようなマイナスの印象に繋がる。



そんな感情は隠したまま少しのやり取りの後、ふたりで向かい合った。
すでに傾聴屋を始めて数年が経っていたけれど、こんなに若い、学生のお客様は初めてだった。



紅茶はお好きですか?
彼はそう言うと、慣れた様子でテーブルに置かれた茶器を使って、紅茶を入れてくれた。
芳醇な香りと立ち上る湯気があまりに優雅で。
そっと一口ふくむと、驚くほどに美味だった。



見れば見るほどに美しい子だった。
前髪は横に流し、賢そうな額が少しだけのぞく。上着こそないが、白いシャツに黒のスラックスにベストという服装は、大学生と言うよりは高校生の制服のようで、幼さを残しながらもスマートで知的な印象を受ける。



道明寺も、類も美作さんも西門さんも…皆同じように美しさを持つ人達だけれど、目の前の少年は透明感が半端なく、今にも消えてしまいそうな儚さがあった。
私はギリシャ神話のナルキッソスを思い出した。きっとこんな風に見る人を魅了する、綺麗で可憐な男の子だったに違いない。



「すみません、こう言うのは初めてで…」
「私のことは、美作さんから?」
彼は美作さんを介さず、直接アポイントメントの連絡をくれていた。
だから、美作さんの従兄弟だということは、ここに来て初めて知る情報だった。
「あ、はい。昔にあきらくんから貴女のことを聞きました。けど、その時はまだ僕も今みたいな状況じゃなかったので。最近、貴女のことを思い出して…申し訳ないですが、調べて連絡させてもらいました。」
「このこと、美作さんは…」
「知りません、言ってません!」
慌てた様子に、初めて若者らしさを感じる。
「承知しました。守秘義務がありますので、今日のことは他言しませんので、ご安心ください。」



誰かに話したい事があったのですよね?そう水を向ければ、彼は私の視線を避けるように、少しだけ目を伏せ、話を始めた。



「僕の膝には人工関節が入っています。
高三の夏に病気が発覚し、手術をしました。
昔ならば、切断しか治療方法がなかった。
だから、僕は運がいいんです。」



そう一気に言うと、私に視線を戻すと、くすりと笑った。



「5年生存率は60〜80%
高いと思いますか?低いと思いますか?


健康な人間にとってはどうかは分かりませんが、僕たち…いや、医療の世界では、これは高い数値に当たると思います。
一昔前は四肢を切断したとしても10%だったそうです。
ね、それに比べたらずっと高い。」



彼の口調は軽い。その淡々とした表情からは、想像も出来ない話だった。
まさか、こういう話になるとは思わず、私は瞬きをして動揺を隠す。



傾聴屋とは、なんと難儀かと思う。
これから私は、慰めればいいのか、叱咤すればいいのか。そんなことを考えながら、彼の話を聴くのだ。
彼は身のうちを聴かせてくれるのだから、本当なら心のままに、感じるままに彼に接するべきなのに。



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