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傾聴屋_12



道明寺から記憶を取り戻したいと言われた時、生じた気持ちは喜びよりも戸惑いの分量の方が多かった。



だって。
例え道明寺が記憶を取り戻しても、もうあの時の牧野つくしはいないから。
ならば取り戻すことに意味があるのだろうか。



せっかくあの時欲しかった言葉を10年遅れでもらったと言うのに。
私はそんな風に考えていた。



****


 
類は最初から反対だった。
傾聴屋なんてダメだと。
危ないし、危なっかしい。



危ないは、私が。
危なっかしいは、私の心が。



私を忘れてしまった道明寺。
私のいた位置に他の女の子を受け入れた姿を見て、私の心は限界に達した。
意地っ張りな私は、思い出してと泣いて縋ることも出来ず、そのまま道明寺との関係を終わらすことを選んだ。



心を決めた私は、皆にもう道明寺のところには行かないと宣言した。
そしてその日にパパの借金が発覚した。
ママは半狂乱になり、今度こそは離婚すると大騒ぎになり、その日を境に我が家の日常はひっくり返り、皮肉にも宣言通り、道明寺に会いに行くどころではなくなった。



学校はすぐに都立の夜学に転校した。
あと一年。どれだけ辛くとも、高校だけは出なければと思った。
そして進も進学させなければ。ママにもそう言って励ました。



元々余裕などない生活に上乗せされた借金の返済。
私たちは困窮を極めた。



学校と睡眠時間以外を全て働く時間に当てても、アルバイトの立場で得られる僅かな給料など借金の返済どころか、生活費で消えていく。
笑いたくなった。
今のこの世の中に、学校に通うこともままなならない家庭も普通にあるのだ。なまじ働くことが出来るから、生活保護や支援給付金は受けられなかった。
学業のためのノートも買えず、勉強に当てる時間もない。
それどころか、明日の食べる物にも困るような日常。



貧乏だと言いながらも英徳に通い、友達と笑いあってたあの毎日は幸せだったのだと。
生きる世界の異なる人に恋をして、好きだと言ってもらえた時間を持てたことは奇跡なのだと初めて気がついた。



もっと大切にすれば良かった。



記憶を失くしたのは彼のせいではないのに。
私を思い出さないのは想いが足りないからだと勝手に決め付けた。
取り戻す努力を放り出して逃げた私には、もう何を言う権利もなかった。



後の祭り、とはこのことだと笑いながらひとりで泣いた。



自分の選択が正しかったとは思えず、他に対処の方法があったのかもしれない、と思うようになった。
けれど、今や完全に住む世界が違う。
だから考えても仕方ないことだと気持ちを押し込めて過ごした。



私が屋敷に来ないことを心配したタマさんが我が家の境遇を知り、以来何かと気にかけてくれた。
友人である彼らの支援の手は受け入れられなかったのに。不思議とタマさんには甘えることができた。



そしてタマさんから仕事の話があった時、類は反対した。
真面目な顔で、ビー玉みたいなあの綺麗な瞳をあたしに向けた。心配を通り越して腹を立てているようにも見えた。
けど、本当に我が家の家計は限界だったんだ。



後先を考える余裕などなかった。



ただ、話を聞くだけでいいと言われた。
言われるままにそれを聞いた。
世の中には色んな人生があると知った。



17歳の私にできる事は限られていた。
あの時はそれが最善だった。
そうで無ければ、きっともっと悪い方に堕ちていた。


だから、後悔はしていない。



いつもありがとうございます。
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コメント

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Re: タイトルなし

さ**さま

こんばんは。
申し訳ありません、お返事遅くなりました。

確かに、つくしに出会う前の司って最低ですよね。自分より力のない人間に容赦ない痛めつけに赤札とか、あげく全部親に揉み消してもらってるし。そういう観点では、起こるべくして起きたことかもですね。
ただ、記憶を失ったのは彼のせいではなく、忘れた司も忘れられたつくしも気の毒だなぁ、と思います。

このお話では、10年経過してますので、つくし的にはもう思い出になっていても不思議ではないですよね。
私も、つくしにはそうやって乗り越えていける力があり、そんな彼女は周りからしたら魅力的なんだろうな、と思いながら書いてます。

コメントありがとうございました!

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