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傾聴屋_11



失くした記憶を取り戻したい。



そう言っても、ハナの様子に変化はなかった。
俺は何食わぬ顔で彼女の様子を観察する。



「眠れなくなったのは、恐らく失くした記憶のせいだ。だから、思い出すまで付き合ってくれ。」



そう続ければ、初日と同じく、大きな瞳をひとつ瞬きしてから、まっすぐにこちらを見てくる。
なるほど、これがこいつの驚きを隠すための癖なのかと思う。



「私は医師でもカウンセラーでもないことは以前にお話ししたかと思います。
傾聴屋は、ただお話をするだけです。
記憶を取り戻す、などと大層なことはお約束できかねます。」
「それで構わない。」
即答すれば、分かりましたと頷く。



「ご利用頻度が高くなるようでしたら、今までのように、お客様を最優先に出来ない場合もございます。」
背筋を伸ばし、キリリとはっきりと物を申す姿に感心する。
やっぱり俺の顔色を伺う連中とは一線を画している。
こんな風な扱いは初めてだったが、不快ではなかった。
「分かった。俺も早めに連絡をするようにする。その時点で先約があれば、無理は言わない。それと…」



ハナがなんでしょう、と小首をかしげる。
屋敷ここ以外への出張はありか?」
「日程が合えばお受けしています。その際、交通費は実費で請求させて頂きます。」



そんなのはなんてことない。
「もちろん、送迎はさせる。」
途端にギョッとしたような顔になる。
そして、実費負担だけで結構です、と再度口にした。



牧野つくし。お前は俺を覚えているんだろう?今の顔は、なんだ?
昔の俺もお前を送迎させたことがあったのか?
「お前の上の名前はなんて言うんだ?」
「…必要ですか?」
今度はなんだとばかりに怪訝な顔になる。
「俺が知りたいだけだ。」
「山田です。」
すました顔で口元に笑みを浮かべる姿は、年相応だ。
よく見れば可愛い顔しているじゃねーか。穏やかなくせに力のある漆黒の瞳に魅入られる。
そうか、俺はこういう女が好みだったのか。
ゾクゾクした。



「山田花子か。偽名を堂々と言うなんてお前ぐらいだぞ。」



俺とお前は、恋人だった。猛烈な力で想い合ってたんだろ?
なあ、お前も俺に惚れてたんだよな?



「偽名と分かっていて尋ねられるのもお客様だけかと思います。」
ツンとしたように横を向く。
最初よりは、感情が分かりやすくなっていると感じた。



楽しくなる。
何しろ、俺の欠けた記憶はお前なのだから。
お前と過ごすことが一番の早道のはずだ。
本当ならば、お前のすべての時間を占有したい。



閉じ込めて、抱きしめて…
そう思った刹那、身体の奥の深いところに火がついたように立ち昇る熱を感じる。
初めての感覚だった。



「お前は、俺の記憶が戻ればいいと思うか?」
「それがお客様のお望みならば。」
「お前は嬉しくないのか?」思わず口に出た。



心の中で問いかける?
なあ、お前は俺との再会をどう思ってる?
お前に会ってから、俺の中の昔の俺が騒ぐんだ。
思い出せ、としきりに叫び、俺が知らなかった感情を次々と呼び起こす。



思えば、お前に会う前から始まってたんだ。
失くした記憶を手繰り寄せるためには、お前に会うことが必然だった。
総二郎は、あの不幸な出来事が俺達の運命だと言ったが、俺はそうは思わねぇ。



「傾聴屋として、お客様のお役に立てるのであれば、これ以上の喜びはありません。」
あくまで淡々とした返答に俺は少しだけ気落ちする。



「逆に質問よろしいですか?」
「ああ。」
「何故記憶を取り戻したいとお考えになられたのでしょう?
失くした、と言うことは、お客様自身がその記憶を封印したかったから、とは思いませんか?」
「いいや、思わねーな。」



…そんな風に思ってたのか?違う、あれはただの事故だろうが。
怒ってんのか?お前を忘れた事を。



「何故失くしたかは分からねー。だが、それは絶対に俺の意思じゃねー。
だってな、日本こっちに戻ってから、しきりに思い出せと俺の勘がざわついてる。もし自分の意思で封印したのなら、そんな風になるはずがない。」



俺は、俺を信じる。
俺の細胞が叫んでるんだ。早く思い出せと。



「思い出さない方がいいかもしれませんよ。」



ポツリ、とハナが目を伏せて呟いた。
思い出したいと願う当の本人からの言葉は、想像以上に俺にダメージを与えた。



いつもありがとうございます。
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コメント

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Re: タイトルなし

と*さま

おはようございます。
コメントありがとうございます。

公開するかも迷っていた話なので、そう言って頂けると嬉しいです。
そうなんです、今回も総二郎にはいいスパイス役をお願いしちゃってます。

こちらこそいつもお越しくださってありがとうございます!

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