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傾聴屋_10



お前はなんか思い出したわけ?



総二郎の言葉に首を振る。



「なんかある、ってのは、ビンビン感じるんだ。
けど、あいつのことを知ってるか言われたら、まるで記憶にない。
やっぱ、俺、あいつのことを知ってたか?」



総二郎を振り仰げば、気の毒に、と言った風に目を細めて俺を見下ろす。
「お前、海ちゃんとはあれっきりなんだよな?」
「海…?」
「かーっ!それすら、記憶飛んでんのか?司が入院中に知り合った子だぞ?お前の頭どうなってるん?」
「いや、まじであの時期のことは、全部靄で覆われたように曖昧なんだ…
親父が倒れたり、いきなりあっちに連れて行かれて、ババアにものすげぇ負荷かけられたからな…
行く少し前に、お前らにガチャガチャ言われたのは覚えてっけどな、細かくは覚えてねーんだ。
海ってやつも記憶にねーな。」



そうだ、あの時、類がえらく怒(いか)って…
言いかけて、類の女と言うフレーズに引っかかる。
靄の切れ目だ。一瞬、頭の中を何か横切る。



「あの時も、誰か類の女って言ってたな…」
「言ってたのはお前な。」
即座に訂正される。



そうだ、あれは誰だ?
誰かいたはずなのに、顔は覚えてなかった。



「あれが、ハナか…?」
無意識に口をついて出た呟きに、総二郎が首をひねる。
「ハナ?」
「傾聴屋の名前だ。名前聞いたらハナって呼べって。」



総二郎が、あいつ徹底してんな、と苦笑する。



「牧野だよ。牧野つくし。
それがあいつの名前。18ん時のお前が追いかけてた女。お前ら、おばさんにすげー反対されて。それでも全部受けて立つってお前はあいつを諦めなかった。猛烈に惚れてた。
あいつもお前を諦めなかった。


けど、忘れた。
そりゃ、おまえのせいじゃねぇよ。あれは不幸な事故だ。
あの時は、俺らもガキだったからな、お前を責めるようなことを言っちまった。
あの後、牧野も色々あってな。あのまま付き合ってても、お前らの恋はいい結末じゃなかったかもしれない。
だから俺なんざ、いっそ運命だったんじゃねぇかと思ってた。


まさか今になってお前らが再会するなんてな…
けどな、司。10年だ。牧野の時間は止まってたわけじゃねー。


まずは思い出せ。その努力をしろ。
それでも思い出せないなら、やめとけ。あいつは不可侵だ。」



牧野つくし…
口の中で名前を転がしてみても、なんの感慨も湧かない。
けれど、それがハナの名前だという。
思い出したいと初めて思う。



「こっち戻ってから、なんか、忘れてることがある気がして気持ちが悪かった。
寝ると、余計に追い詰められるような…急き立てられるような…気がつけば眠れなくなった。多分、理由はそれだ。」
「それで、傾聴屋呼んだんか。あきらの紹介か?」
「いや、タマだ。」



途端、ひゅうっと口笛を吹く。



「そりゃ、婆さんも賭けに出たな。確かに、俺らからの依頼じゃ、あいつは頷かないか。」



納得したように総二郎が頷く。そして切れ長の目が真っ直ぐに俺を見る。
その眼差しに、思わず背筋が伸びた。



「いいか、司。これはラストチャンスだ。最大限の努力をしろ。

あと、俺はあいつを車に乗せてねぇよ。
あの時は見かけたから、声を掛けただけだ。
あいつは相変わらず可愛くねーからな。付き合ってもない男の車の助手席に乗るような簡単な女じゃねーから安心しろ。」



「類とは?」
「さっきも言ったろ。俺は知らねーよ。
ただ、あんときも、牧野は言ってたぜ。あたしは類の女じゃないって。ちゃんと思い出して、そしたら勇気出して聞いてみろ。」


フフン、とばかりにスカして見下ろす顔にまた兄貴ヅラしやがって、と癪に障る。
「なにが運命だ。運命なんざしらん。俺のことは俺が決める。」
久しぶりに、自分の中に生じた熱を感じる。



ーー あの女を思い出せ。



湧き上がる想い。理屈じゃねーんだ。俺の勘が言ってる。






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コメント

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Re: タイトルなし

a**さま

おはようございます。
お久しぶりです。コメントありがとうございます。

全体的に淡々とした進みですよね。
記憶喪失、お好きなテーマでよかったです。
やっと牧野つくしに辿り着きました。

明日もちゃんと更新しますね!
これは結構前に書いたお話なのです。少し加筆はありつつ、手直しぐらいで公開できるので、前のお話ほどお待たせはしないかと思ってます。

引き続き、どうぞ宜しくお願いします。

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