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10万回_04(CP類つく)〈完〉



さて、行こうか。
ゆっくりと立ち上がり、二人でシートを畳むと少しだけ傾斜になった土手を、滑らないように足に力を入れて慎重に上がる。



土手を上がると、ものすごい人だった。それは土手を離れ、路上に出てからも皆が駅を目指すから同じだった。
人人人。これだけの人があの会場にいたのかと思えばそれもまたスゴイ。



「こっち。」
類に手を引かれるまま、人波で埋まる騒々しい通りから横道にそれる。
そこはポツンと街灯だけが灯る暗闇で。だんだんと音が遠ざかる。
更に進めば、先程までの喧騒が嘘のように無人だった。



「この先に、うちのマンションがあるんだ。」
人混みを歩くのは疲れる。やれやれ、とばかりにぐるりと首を回しながらそう言うと、あたしの顔を覗き込む。



「あのさ、俺、牧野としたい。いい?」
突然の誘いにあたしは息を飲む。
あたし達は、まだキスしかしてない。何度も類の部屋には泊まってるけど、まだそう言う関係にはなっていなかった。



付き合い始めてすぐに、類からしようか、と言われた時。
色気もへったくれもなく、素で何を?と返したあたしに、類が大きく目を見開き、次の瞬間ぶっと噴き出した。
あたしはその反応にも心当たりがなくて、なんだ?と首をかしげた。
だって、それまでは二人でソファーに座ってまったりとちょっといい雰囲気だったのだから。



そんな戸惑うあたしを見て類は笑いを止めて、額にちゅっと音を立ててキスをした。



「そうか、牧野はまだ機が熟してないんだ。
なら、あんたもしたいって思うまで、待つよ。
だって、俺だけが気持ち良くなっても仕方ないでしょ?二人ですることなんだから。」



ーー 流石に、分かった。しよう、の意味を。



そうだよ、いい雰囲気だったからこそだったのに…
ムードぶち壊しで何を?なんて二十歳も過ぎた女がアホすぎる…自分の鈍さが恥ずかしくて、穴があったら入りたかった。
けれど、この場を逃げ出そうとしたあたしを類は即座に捕まえると、自分の足の間に座らせ、後ろから強く抱きしめる。




「俺から逃げないで。 大丈夫、牧野のことは分かってるから。
こうやって、抱きしめたりはするけど、それ以上の嫌がることはしないって約束するから。」



大切なものを愛しむように囁かれて。
背中には類の熱い身体がピタリとくっつき、完全に抱き込まれたこの状況もかなりの密接具合で…
類の髪があたしの頬をくすぐり、唇があたしの首筋に触れる。
あたしは色々と頭の中に巡り、結果、キャパオーバーになる。
類と…類と…!?正直想像が出来なくて、未知のことに怖くて…



「キ…キスとか、こうやって抱きしめてもらえるのは、う、嬉しいんだけど…ちょっと…まだ、勇気が出ない…」
しどろもどろになりながら、あたしってなんでこう、流されたり出来ないのかと、自分の頑なさに深く落ち込む。




✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱



あの日以来の、お誘いだった。



「牧野が好きだよ。あんたをすごく愛しく感じてる。
真っさらなあんたを大事にしたいって思う気持ちも相変わらずあるんだけどね?
だけど今日は、あんたが欲しいって気持ちと、あんたを俺のものにしてしまいたいって欲が、溢れてきた。」



朴訥と言葉を並べる類を愛しく思う。自然にするりと答えが口をついて出た。
「いいよ。怖いけど、類も一緒なら怖くない。
ちゃんと、あたしの中にも、進んでみたいと思う気持ち、ある…」



きっと、これが類の言う“機が熟した”ってやつだ。
いつもより早い拍動にあたしは煽られる。



「知ってる?心臓って1日に10万回、休むことなく拍動してるんだって。
類といると、あたしきっとその倍は拍動してると思うんだ。だって、好きで好きで、勝手に心臓がドキドキするんだもん。」



「確かめさせてよ。」
憧れの王子様を具現化したような類に、甘えるように囁かれて。
本当に心臓が口から飛び出しそうなくらい二倍速でドキドキしてきた。
けど、嫌だとは思わなかった。



「俺も同じだから。あんたも、確かめてよ。知ってる?裸でぴったりくっつくと、お互いの鼓動が重なるんだ。」



この前、あたしのために走った類も、心臓が勢いよく拍動していたことを思い出す。
あれより近づくのだ。考えたらかぁっと頭に血が上る。
だけど、ドキドキしてるのは、あたしだけじゃないって類が言うから。だから、大丈夫だと思えた。
なにより、もはや類に抗うことなどできるはずがない。



「あ、あたし、はじめてだからどうしたらいいか分かんないよ…?」
「はじめてじゃなかったらショックだ。」
そう、クスクス嬉しそうに笑う。街灯の灯りが容姿端麗なその姿を浮かび上がらせる。
「あれだけ他の男が近寄る隙がないように牽制して来たんだから。」
また思いがけない告白にあたしは固まる。



「牧野つくしだけをずっと見てきた。俺はあんたを抱くはじめての男で、最後の男だ。
だからあんたの鼓動、10万回でも、20万回でも、100万回でも…永遠に数えるよ。
だって、それが出来るのは俺だけだから。もう逃さないから覚悟してね。」



破壊力満点の笑顔に、あたしは倒れそうになる。



fin



ーーーーーーーーーーーーーーーー

記念短編にお付き合い頂きありがとうございました。
明日から『あなたがいれば』を再開します。(司が目を覚まします。)
またお越し頂けると幸甚です。

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Re: タイトルなし

7:10にコメント下さった方へ

こんばんは。
コメントありがとうございます。

はい、御礼話なので、最後は甘めで。
類は独特の雰囲気がある人なので、その空気を壊さずに書くとなると、このあたりが私の限界です…
最後までお付き合い頂きありがとうございました!

Re: No title

み****さま

こんばんは。

いやいや、新しい視点、新鮮でした。ありがとうございます😊
なにかの機会に使わせてください!

類の愛情って、時に激しく弾けることはあれど、ベースは静かなイメージでして。こんなお話になりました。

コメントの件、私も本文と同じワードが引っかかるとは知らず、ご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありませんでした。

台風の影響、今日は大丈夫でしたか?
明日西日本に上陸するとか。自然の前に人間は無力ですが、警戒して準備することで被害が最小限に抑えられる場合もありますので。
くれぐれもご用心ください。

コメントありがとうございました。

Re: タイトルなし

チ*****さま

こんばんは。

世間はお盆ですね。お休みの方が多いのに、お天気不安定で気の毒です…
チ*****さまも雨に降られて災難でしたね。この季節、短い方が涼し気で素敵だと思います!

類つく短編は、優しく甘くをモットーにしてます。穏やかな二人だから、お話は平坦になりますが…
和んでいただけたなら、冥利に尽きます。

コメントありがとうございました。

Re: タイトルなし

悠*さま

こんばんは。
コメントありがとうございます。

確かに類つくとつかつくって、CPの二人の間の空気が違う気がしますね。

私の場合は、類って独特な雰囲気があるので、彼の空気感を極力乱さないように…と思いながら書いてます。(果たして出来てるかは、置いといて…)

類つくリクエストありがとうございました!
最後までお付き合い頂き、またハンドル押して頂けて幸甚に存じます。
と敢えて使ってみます(笑)

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